SESSION 03 / 06

文書を磨き、
作り、つなげよう

正本・Spec・ピラミッド・100行

Jee Jun Young

非情報系(経営学科)→ 記者・海外営業 → 開発者に転向
iOS・Android・フロントエンド 約5年半(6年目)
大企業向けコラボレーションツールのiOS/macOSアプリ開発
2026年〜 バイブコーディングでWeb・サーバーを一人で開発・事業化

PART 1 — 振り返り

Vercel、Supabaseに
公開してみましたか?

まだ試していなくても構いません。

RECAP・第1回・第2回

Claudeが読む文書を、もう一度確認

第2回の飲食店のたとえを、もう一度

Claudeは毎回新しいアルバイト。昨日の仕事を覚えていません。
厨房の壁に調理ルール表を貼ってこそ、毎回同じ味になります。

その調理ルール表=

CLAUDE.md — Claudeが必ず読むという約束のマスターファイル。
この名前を大文字で正確に付けると、システムが自動認識します。

大きなプロジェクトでは、部署別のルール表もあります。

ルート
CLAUDE.md
共通ルール
Web
web/CLAUDE.md
ホールのルール
サーバー
server/CLAUDE.md
厨房のルール

今日は、このルール表をどう磨き、作り、つなげるか。

ORG CHART・たとえ

会社の組織図=Claudeの文書階層

LAYER 1
CEO・グループ会長

頭の中にある会社の全体像=企画書・PRD

対応する文書
ルートのCLAUDE.md

会社全体が企画書・PRDに従うためのマスタールール

LAYER 2
部長・室長・常務

上から来たルールが変わったら、自分の部署はどう動くか

対応する文書
web/CLAUDE.md · server/CLAUDE.md

部署別ルール — ホール/厨房

LAYER 3
各室の担当者(原料加工室・製作室・機械室)

現場で実際に働く人たち

対応する文書
spec・design・API仕様

詳細な仕様文書

CANON — SINGLE SOURCE OF TRUTH

正本 — 開発における意味

正本=Single Source of Truth
略してSSOT

どんな情報も、
本当の原本は一か所だけに置く必要があります。

英語の用語 — Canonical

CanonicalはCanon(基準・法・正典)から派生した形容詞。「標準の、正式の」という意味。
コンピューター科学では、複数の表現のうち「正本と指定された一つの形式」。

例:Canonical URL(重複URLの中の代表)・Canonical form(2/4、4/8を1/2に正規化)

正本・SSOT・Canonicalは、同じことを指す3つの言い方です。

例

社員の連絡先が人事・総務・チーム長のExcelの3か所にある。
一人が電話番号を変えたのに、人事のExcelだけ更新された。
→ 残り2か所は古い番号。
→ どれが正しいのか誰にもわからない。

ソフトウェアでも同じです。同じ設定値が3か所に散らばっていると、
一つを直しても残りが変わらず、バグが起きます。

CANON · REFERENCE · SPEC

正本・参照・Spec — 実際にどう機能するか

例①・原料加工室の正本

「当社はプラスチックを280度で溶かして製品を作ります。」

→ この情報は原料加工室の文書一か所だけに置く。
→ 製作室・機械室はそこを参照する。
→ 誰かが290度に変えて他の室に伝えなければ → 事故。

例②・機械室の正本と担当者

「当社の機械はABC-150モデル。溶かす温度は原料加工室が基準です。生産量の調整、機械の起動・停止、更新後の試運転は、まず機械室の担当者に聞いてください。機械室から原料加工室・製作室へ変更を共有します。」

→ 正本と変更担当者(窓口)まで定めた状態。
→ 自分の担当領域と他人の領域を正確に分けて理解する。
→ 決めなければ、他の室同士で的外れなことを始めます。

正本の2条件(AND):
① 一か所だけにある  +  ② ほかのすべての場所がそこを参照する

どちらかが崩れると、同じ情報が二か所に違って書かれ、人間もAIもどちらが正しいかわからなくなります。つまり事故です。

なぜClaudeに
正本が重要なのか

問題1
同じ内容について、異なる文書が2つ
どちらが正しいか、
Claudeには判断できません。
問題2
コピーを修正する
次のセッションで原本を読むと、
作業が消えます。

「この文書が原本だ。」
この1行がプロジェクトの生死を分けます。

DOC TYPES — 5 CATEGORIES

文書を5つの観点で考える

① 何を作るか

製品の構想・誰のため・なぜ

② どの技術と構造で複雑な処理を作るか

技術の選択・システム構造・データモデル

③ どのような見た目にするか

UI・デザイン・画面・色・フォント

④ どうデプロイ・提供するか

サーバー・ホスティング・インフラ・環境変数

⑤ 正本・参照を設けるきっかけ —
Web・サーバー・Android・iOSのうち2つ以上が共有する必要があり、
Claudeに少しでも混乱の余地があれば、
→ どんな領域も正本の対象になり得ます。

Spec/Design文書が
必要な理由

Specがなければ、AIは推測します。
推測が100、200と積み重なると、
どこから間違ったのか追跡できません。

Specあり
契約書
Specと成果物を比べれば、
何が違うのかすぐわかります。
Specなし
勘
「これで合ってそうだけど?」
比較する基準自体がありません。

図面なしで家を建てる人はいません。
図面がSpec、家がコードです。

1行の例

1行の例で理解を固める

②「どう作るか(技術・構造)」の例
「工場でプラスチックを280°Cで溶かす」

正確な数値が正本。
この1行が正本で、すべての工場が参照します。
290°Cに変えて通知しなければ → 事故。

③「見た目(デザイン)」の例
ポルシェ — 統一されたデザイン言語

911・パナメーラ・カイエン・タイカン。
すべて一目でポルシェとわかる外観。
フライライン・ヘッドライトの特徴・プロポーション。

デザインの正本は一か所、工場は分散

正本(デザインセンター)
Style Porsche、ヴァイザッハ(Weissach)

すべてのモデルのデザインを一か所で決定。

参照(分散した工場)
シュトゥットガルト・ライプツィヒ・スロバキア

911・パナメーラ・カイエンの工場は別々。

正本がなければ → 各工場のデザイナーが勝手に推測します。
911に合う曲率、カイエンに合う曲率を、それぞれ別々に。
→ 一目でポルシェとわからなくなります。

どちらも正本になれます。
業務ルール上、どの部署がその文書を管理し、
ほかの部署は読んで業務の参考にするだけなのか。
→ この一点を考えればよいのです。

PART 2

文書の
階層

今日の授業の核心です。

HIERARCHY

修正は上から下へだけ

企画書
=事業のビジョン

↓

PRD
=①「何を作るか」

↓

Spec
=②「どう作るか(技術インターフェースの契約)」

↓

システム設計
=②「どう作るか(構造)」+④「デプロイ・提供」
UIデザイン
=③「どのような見た目にするか」

↓

コード

コードから先に変えると、
文書とコードがずれ始めます。

文書間のつながり

「この文書は、あの文書を参照する」と、
AIに明示してください。

そうしなければ、AIはまったく別の文書を読み、
的外れな方向へ作業します。

SINGLE RESPONSIBILITY · ATTENTION

一つのファイルに何でも詰め込むな

目安は100行前後(絶対的なしきい値ではない)

バックエンド開発者が生涯これらの言葉でコードを分割するのは、なぜ?

行数 アーキテクチャ デザインパターン データバインディング カプセル化

人間も一つのファイルの中で迷うからです。AIも同じです。

短すぎれば文脈不足。
長すぎたり内部の秩序がなかったりすると、AIは中で迷います。

一つのファイルにこれらが混ざると、AIは混乱します。

ビジネスロジック
UI・レイアウトのフラグ
サーバー通信コード
外部ライブラリの呼び出し

学術的な用語もあります。Context Rot(文脈の劣化)です。
長い文書で注意機構が崩れる現象です。

行数だけではない — 2つの軸で見る

① 行数(LOC)+② 循環的複雑度(Cyclomatic Complexity)

たとえ:同じ50mの道が2本

Aの道 ━━━━━━━━━━━━━━━━━ Bの道 ━━┼━━┼━━┼━━┼━━┼━━

距離は同じでも、判断は0回と5回。初めての道で一度曲がり間違えれば別の街です。

コードも同じです。同じ50行でも分岐0個と12個では違う。AIが一つ間違えれば別の街へ行きます。
業界標準はCC ≤ 10。SonarQube・ESLintが自動測定します(1976年、McCabe)。

つまり、この原則はCLAUDE.mdだけの話ではありません。皆さんのWeb・バックエンドのコードも同じです。

解決策はファイルを分けること。
長かったり分岐が密集していたら、Claudeに「このファイルを分割できる?」と聞く。
開発業界で50年続く原則、関心の分離(Separation of Concerns)です。
暗記は不要。「こういう言葉がある」とだけ。

この会社の構造は、
誰が作りましたか?

人間が作りました。

組織図を描き、部署を分け、正本を決め、担当者を定めました。
この構造を作ったから、会社が動くのです。

ましてAIなら?

AIはこうした構造を自力では作れません。
人間でも用意しなければ動かないのですから、AIはなおさらです。
人間が与える必要があります。その構造が文書です。

PART 3

10原則の振り返り
+今日の3原則

第2回の復習

#10
発注者として考える
#03
文書化・確認・再依頼
#02
うのみにしない
#06
委任中心の考え方へ
BONUS — #04
自分で勉強するより繰り返し質問

今日はここに3つ追加します。

TODAY · 3 NEW PRINCIPLES

今日追加する3つの原則

01
誇大広告を警戒しろ
05
機械で機械を監視しろ
09
検証が作業より長ければ失敗

この3つを一つずつ説明します。

PRINCIPLE 01
誇大広告を警戒しろ
AIは賢いです。
ただし、本社に首輪をつながれた賢さです。

本社がルールを変えると、
皆さんは理由もわからないまま、
「今日のClaude、変だな?」と感じます。

EVIDENCE

Claudeの性能変動
— 実際の報告

2026年4月 — GitHub、Reddit、X

Anthropicがサーバー費用を減らすために、
既定の思考努力を「medium」に下げました。
ユーザーには通知しませんでした。

Claude Codeの責任者が直接説明に出るほどでした。
特定のベンチマークでOpus 4.7のスコアが一部低下した例も報告されました。

AI企業も企業です。企業の事情によって製品の品質は変わります。
これが誇大広告を警戒すべき根本的な理由です。

第1・2回を振り返る

ワンクリックのコーディングも事業もない

第1・2回で伝えたこと — 「この話、しましたよね?」

ところが今日は、これだけ長い時間をかけて、文書を磨き、つなげる話をしました。
正本 → 階層 → 100行 → 実演……
変だと思いませんか?

YouTubeやInstagramでは「ワンクリックで全部できる」と言いますよね?

「AIに頼めばおしまい、コードを知らなくてもOK」

それがどれほど空虚なのか、
実際の開発者チャットの話でお見せします。

COMMUNITY EVIDENCE

毎日調子が違う — 私だけの経験ではありません

開発者コミュニティのKakaoTalkチャット・直近数日(名前・プロフィールは匿名化)

KakaoTalk画像パネル1 — 最初の不満とコミュニティの反応 KakaoTalk画像パネル2 — 原因の推測と冗談 KakaoTalk画像パネル3 — 正常化への期待とモデル変更 KakaoTalk画像パネル4 — 自己疑念と締めくくり

AIは「品質を保証する公共財」ではありません。
「毎日調子が変わるサービス」です。

3つの対策 — ①調子を確かめる習慣 ②ツールの分散(Claude・Gemini・Codex)③コミュニティへの参加

PRINCIPLE 05
機械で機械を監視しろ
同じモデルに自分の作業を検証させないでください。
自分の答えを擁護するのが本能です。

Claudeの結果をGeminiやCodexに渡す、
またはその逆でも構いません。

現場ではコード作成とレビューを別々のAIで行います。

相互検証を積極的に使ってください。

PRINCIPLE 09
検証時間が作業時間を超えたら、すでに失敗だ
MACHINE
5時間

:

HUMAN
1時間以内

比率が逆転すると、多くの人は2週間以内にやめます。
最初から確認しやすい大きさに分けて渡してください。

10 PRINCIPLES — 8/10

01
誇大広告を警戒しろ
02
機械は怠けるし、嘘もつく
03
文書化・監視・追及
04
自分で勉強しようとするな
05
機械で機械を監視しろ
06
勉強ではなく委任だ
07
基礎知識は追及の武器だ
08
自分で作って初めて限界が見える
09
検証が作業より長ければ失敗
10
あなたは広告主、機械は代理店だ

■ 今日(第3回)扱った原則  ・  ■ 第2回で扱った原則  ・  ■ 今後の回

10原則のうち8つを扱いました。今日追加したのは3つ(#1・#5・#9)です。
残り2つ(#7・#8)は今後の回で扱います。

☕

10分休憩

PART 4

Claudeに
聞いてみる

Claudeにこれらを
聞いてみてください。

CLAUDE.mdはどう構造化するの?

PLANNING.mdには何を書くの?

PRDって何? Specって何? 違いは?

自分のプロジェクトに必要な文書構造を提案して

HOMEWORK PROMPTS · 5

帰宅したら、こう聞き直してください。

Q1・正本の確認
「このプロジェクトに正本の概念が必要そうな文書はある?」

Q2・Webとバックエンドの共有文書と担当者
「Webとバックエンドで共有する必要がある文書は、どんなもの? その場合、誰が正本を持つべき?」

Q3・部署別文書の具体化
「Designやアーキテクチャだけでなく、Webとバックエンドはそれぞれどんな文書を持つべき?」

Q4・バックエンドのインフラ文書
「バックエンドのインフラ関連文書は、どう構成すべき?」

Q5・視覚的な図
「文書間の参照関係、正本とコピーの関係、階層のピラミッドを、図のような視覚的HTMLにして。自分の目で確かめたい。」

TODAY'S KEY TAKEAWAY

01
正本は一つ、修正も正本だけ
ほかは参照だけ。コピーの修正は禁止。変更は一人の担当者から始めて伝播させる。
02
SpecがなければAIは推測する
推測が積み重なると制御不能になります。
03
修正は上から下へ(既定)
企画書 → Spec → Design → コード。コードから変えたら、同じセッションで「文書・CLAUDE.md・Specをまとめて更新して」と一言。業界の道具はADR・Swagger。コードだけ、文書だけ、どちらも不可。

BONUS — AIを追及する3つの軸

空間
確認したの? 推測なの?
時間
その情報は何日付?
判断
その方向性は根本的に正しい?

PART 5

今日の
宿題

家で試してください。

TASK 1・文書の確認
PLANNING.md・PRD.md・CLAUDE.mdが適切に作られているか確認
• PLANNING.md=企画・計画文書(マイルストーン・ロードマップ)
• PRD.md=製品要件文書(何を・誰のために・なぜ)
• CLAUDE.md=Claudeが必ず読むルール文書
なければClaudeに作らせてください。
TASK 2・正本と参照の導入
重複の確認と参照の仕組みの理解
• 「重複して混乱する部分はある? 正本と参照を導入する計画を立てて。」
• 参照の作業が始まったら → 「mdに何が追加され、なぜClaudeはそれを読むの?」
正本と参照が単なる文字ではなく、AIが従う仕組みだと体感する。
TASK 3・文書構造の提案
Web・バックエンド全体の文書地図
「プロジェクトのWebとバックエンドを制御する最上位文書と、Web・バックエンド自体を、どうつないで管理すべき?」
そのまま適用する必要はありません。構造の提案書があること自体が出発点です。
TASK 4・ドメイン知識の整理
業務ルールや注意事項を、どの文書へ?
「業務ルールや注意事項は、どの文書に置くべき? PRD? ルートのCLAUDE.md? 部署別CLAUDE.md? 別の文書? お勧めを教えて。」
業界の用語はDomain Knowledge。バイブコーディングの時代、WHAT・WHYは人間の役目。整理して説明する力が、かつてなく重要です。

SESSION 03 / 06

今日も、
お疲れさまでした。

次回 — 第4回。
F12を押せば全部見える — バイブコーディングのセキュリティの現実。

OPEN CHAT

オープンチャットのQRコード

質問があれば、
KakaoTalkのオープンチャットをご利用ください。